地域課題を解決するIoT技術で成長を遂げた企業の組織運営戦略:株式会社アイエスイー 髙橋 完氏

地域課題を解決するIoT技術で成長を遂げた企業の組織運営戦略:株式会社アイエスイー 髙橋 完氏

会社名:

株式会社アイエスイー

所在地:

【本  社】三重県伊勢市御薗町新開80番地 大西ビル301号
【船江工場】三重県伊勢市船江2丁目29-60

代表取締役:

髙橋 完

資本金:

1000万円

従業員数:

20名(2023年6月現在)

設立:

1991年9月

Q.御社の現在の事業内容について教えてください

「電子機器の設計開発、製造、販売の全てを行うIoT機器のメーカーです。IoT機器を活用する場所として主に農山漁村へ照準を絞っておりまして、獣害IoT事業、海洋IoT事業、地域IoT事業、林業IoT事業、といった事業内容になっております。

簡単にご説明いたしますと、まず獣害IoT事業に関しては、イノシシやシカ、サル、最近ですとクマなどによる農作物や人への被害がある中で、現在は個体を減らして被害を抑えていくための捕獲が非常に重要になってきているところです。捕獲の手段としては罠や檻など色々なものがありますが、我々はIoT機器の活用を全国に普及することでこれを支えるといった事業を行っております。

海洋IoT事業に関しては、まず気候変動による海水温の上昇などで、穫れる水産物が変わってきたり、養殖が困難になったりしている現状があるんですね。そうした中で漁業者さんは、水温の測定を手動でされているのですが、これではやはり取得するポイント数が凄く少なくなりますので、あまり信憑性のあるデータが回収できないということになります。そこで我々は、IoTで海の見える化をしようということで、現場に海洋観測機を設置する事業を行っているんです。

カメラによる画像確認や、水温、プランクトン量、塩分濃度、酸素量といった色々な海洋データを、30分から1時間に1回ウェブに上げるような仕組みを作りました。漁業者さんはスマートフォンで簡単にその情報を確認できますので、例えばすごく水温が下がったりという変化にもすぐ対応して、養殖する上で作業のやり方を変えたりすることができるんです。水産物がたくさん穫れる他、品質がいいものになるということも目指して使っていただいております。

地域IoT事業は、農村や山村では江戸時代から沢山のため池が作られているところ、人口減少により集落での管理がもの凄く大変になっているという背景に加え、線状降水帯の発生など大雨による氾濫の恐れが出てきていることから、この解決にIoTを活用するものです。ため池にカメラを設置して観測することで、例えば水位が上がっていたら事前にため池の水を出す作業を行えるなど、防災的な面もある事業ですね。

最後に林業IoT事業ですが、林業の方が働く現場である森林は凄く過酷な環境で、怪我や死亡事故が発生するリスクは全産業平均の10倍とも言われているほど高いんですよ。なぜかというと、どうしても森林ではモバイルのLTE回線が入らないところが多くありますので、圏外の場所で作業することになりがちです。そうすると、もし何か怪我をするなどの事故が起こった時には伝達が凄く遅れてしまうんですね。

それをなるべく早めに伝達して、助けられる命を助けるということができるような仕組みとして、携帯が圏外でも林業者さんの身に何かあった時には、SOSを押せば、救急隊や事務所の方が駆けつけられるようなIoTの端末を作って、今年度から全国に普及させる取り組みに着手しました。以上の4つが当社の現在の事業となっております。」

Q.御社の採用や教育など、組織運営のこだわりは何ですか?

「実際のところ採用の時に判ることは少ないというか、1回その場で話をするだけでは、なかなか分からないものですよね。しかしその中でも、ひとまず専門的なIoTの技術力は置いておいて、まずは目を見て会話ができるか、大きな声で挨拶ができるかといった、社会性やコミュニケーション能力が凄く重要なみるべきポイントではないか考えています。

と申しますのも、実際に当社で働いているスタッフを見ると、従来の技術を変化なくずっと作り続けていくということではなく、新しい分野に飛び込んでいくようなところがあると思うんですね。実際に農山漁村へ足を運び、その中でニーズ見つけて持ち帰って来るためには、確実にコミュニケーション能力が高くなければ務まりませんし、それを社内の各部署間で話し合いながら企画に落とし込むといった作業にもコミュニケーション能力が必要です。きちんと話ができなければ、おかしな方向へ行ってしまいかねませんからね。こうしたことから、やはりしっかりと会話ができて、報連相ができる人であることが重要かなという風に思います。」

Q.御社の組織や社員の魅力は何ですか?

「当社では、社内のスタッフが全員集まる全体会議の中で、一人一人がパワーポイントで資料を作ってプレゼンをするという取り組みを毎月1回実施しています。業務の話はもちろん、SDGsの取り組みや、個人的なことでもネタは何でも良いので、報告したいこと3つを10分くらいにまとめて話をするというものです。

最初はどうしても発表に慣れていない人が多く、うまく話ができないという人もいましたが、毎月毎月それを繰り返していくことによって、発表が凄く上手になっていきますし、世の中の変化に適応できるようになってくるんですよ。何か課題があればすぐに解決策を見つけて、会社を良くしていこうという動きが自立的にできるようになってきているように思いますね。

我々は全国にお客様がいらっしゃいますので、そうしたお客様への対応や、目まぐるしく変化する当社の事業内容などに適応できるように、こうした全体会議を通して各自がどんどん進化してくれる、そうした環境を提供できているのではないかな、と思っています。

また、全体会議の後には1on1で個別のミーティングをするのですが、その際に困っていることなどがあればアドバイスをするようにはしていますね。例えば当社の営業スタッフは全国を飛び回っているのですが、全体会議でSDGsのネタがないとつぶやいていることがあって、その後の個別ミーティングで普段やっていること自体がSDGsだから、何も自分の業務以外で見つける必要はなく、自分が今やっている地域に貢献できることをSDGsの番号に紐付けていけば発表が楽になると思う、というアドバイスをしました。こういう風に難しく考える方も多いので、単純にシンプルに考えていった方がいいよということは伝えていますね。

あとは発表の資料が質素な感じであれば、そこはちょっと注意します。というのも、やはり資料はアウトプットする部分ですので、せっかく良いものをたくさんイメージして発表しようと考えても、資料がガサツだとどうしても値打ちが下がってしまいます。一所懸命に努力したものはちゃんと値打ちを持たせて発表するということをしないと、給料も上がりませんし世の中で損する人になってしまいますので、そこは注意するようにしていますね。」

Q.御社の躍進のきっかけは何だったのか?

「ちょうど14〜15年前から少しずつ社員を増やしていった感じなのですが、当時はリーマンショックをきっかけに獣害対策の機器を作ろうとしていた頃でした。それまでは電子機器の設計開発を大手や中規模企業から業務委託として受注していたのですが、リーマンショックの時に各企業が内製化に動き出したことで仕事が減っていったんですね。

経営が割と順調でしたのであまり真剣には考えていなかったところへ訪れた危機で、家族のことも含めて沢山のことを考える機会になりました。他のメーカーの開発をしていると、そのメーカーに何かあった時には絶対的に下火になってしまうんだというリスクがよく分かりましたので、自社商品開発の必要性について当時社長をしていた父と一緒に検討を始めたんです。

当時の父は銃猟を行っていて、その際には捕獲檻を使っていたのですが、なかなか捕まらないことも多かったんですね。そこでセンサーを使えばもう少し捕獲しやすい環境にできるのではと実証してみたところ、これが結構うまくいきまして、三重県農業研究所さんや鳥羽商船高専さんなど色々なところを巻き込んで研究開発をしながら、どんどん一つの事業に膨れ上がっていきました。ついには農林水産省の研究事業へ参加するまでになり、そうするとやはり人手がなければ実証できませんので、これが人を増やそうと思ったきっかけになった形ですね。

こうして開発スタッフはもちろん、機器を全国へ普及しようと思うと営業スタッフも必要になりますし、電話対応には総務担当や事務員が欠かせませんので、徐々に採用が増えていきました。これは恐らく獣害対策のIoT機器が凄くうまく受け入れてもらえて、国の予算がついたことによってしっかり収益化しながら人を増やしていけたことが大きいのかなと思います。

もちろん順調なことばかりではなく、人が辞めてしまったこともありましたよ。私がナンバー2として働いていた頃にちょっと突っ走りすぎて、全国を駆けずり回っていた自分のレベルに合わせるようにとスタッフへ無理な要求をしてしまったことがあり、非常に反省しました。そこでスタッフのレベルを底上げするために、意識を変えてもらうにはどうすれば良いのかと色々探したことで加藤さんと出会い、絶対に経営理念が必要だなということに辿り着いたんですよね。

ちょうど先代から私に代を移して、事業承継をした頃でしたから、これから社長としてやっていくぞという時に、やはりみんなが中途半端な気持ちでやるよりも、一つの志を持ってやった方が絶対スムーズに会社の運営ができるなと感じ、経営理念と行動指針を作っていきました。」

Q.会社経営、組織運営についての哲学やポリシーを教えてください

「絶対的に他には負けないぞという風に思う部分は、やはり企画から開発製造販売サービス、全て一貫して社内でやっているということで、これを理念として表現したものが”うみだす・つくる・うる・つきそう”です。

作り上げるということに関して、ものづくりをやっていても現場でどういうことが起こっているのが分かっていない企業というのは、凄く沢山あるという風に思うんですね。実際、獣害対策の現場や海洋の現場など色々な所へ行くと、物を作って導入するんだけれども放ったらかしになって、いつしか使わなくなるということが結構多いんです。これではお金が無駄になってしまいますし、導入したのが自治体であれば税金の無駄遣いになってしまいますよね。

やはり当社の商品を入れてもらったからには、10年20年と使ってもらえるようにずっとサポートできたらいいなと思いますので、この”つきそう”ということが凄く重要だと思っています。大変な部分もありますが、三重県の伊勢市から発信して営業マンが全国を飛び回るという仕組みは、物をブラッシュアップするには凄くやりやすい環境ですし、どんどん変化していくというのもスタッフにとって刺激があるのかなという風に思っているところです。」

Q.御社のこれからの展望は?

「2025年までは農山漁村をIoTで結ぶという目標で進んでいるのですが、そこから農林水産業が世界へ羽ばたいていくことを含めた2030年までの目標があるんです。日本で課題を解決したモデルを海外で展開できれば良いなと考えておりまして、まだ社員を巻き込めてはいないのですが、今年度から少しずつ海外向けの製品開発について検討を始めているところです。

とはいえ、まだまだ日本国内でもIoTをうまく活用できていない農山漁村は多くて、なぜかというとやはりご高齢の方などIoT機器やスマートフォンに苦手意識を持っているというのもあるかなと思っています。あとIoTをどうやって活用するのかも重要です。そこも含めてうまく活用していただくための研修会など、サポートを強めていきたいですね。そうしたことをどんどん続けていく中で若い世代が入って来れば、その人たちが機器の使用方法を先生になって教えていく仕組みを作るなど、物を持続的に使ってもらうことが重要だと思っています。

ある意味でコンサル的な話になるのかなと思いますが、現時点で当社はこうした部分もカバーしていますので、これからも他に負けない強みとして”つきそう”を強化していけたらいいなと考えております。」