- 会社名:
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豊栄工業株式会社
- 所在地:
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事業所 波多瀬 組立工場 (三重県多気郡多気町波多瀬1476)
波多瀬 成形工場 (三重県多気郡多気町波多瀬1421)
大黒田工場 (三重県松阪市大黒田町小林297-1)
伊勢事務所 (三重県伊勢市神社港572-2) - 代表取締役:
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杉田 直紀
- 従業員数:
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135 名(令和4 年度)
- 設立:
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昭和40 年3 月
- URL:
目次
Q.御社の現在の事業内容について教えてください
「プラスティック成形部品の金型設計と製作、成形、印刷、組立の事業を行っており、大手自動車メーカーで使用される車の部品をメインに取り扱っております。住宅設備も手掛けているのですが、火災警報器の配線ボックスやトイレの基盤部分等ですから、あまり一般の方が目にするような物ではないかもしれませんね。
現在は北海道のJAから牛の首につけるとGPSによる位置確認やバイタルチェックができる機器の金型を起こしているところです。弊社が設計とケースの作成を担当して、基盤はNTTさんが作るというものです。こうした開発設計の業務も常に一定数は抱えておりまして、弊社にて全工程を対応するケースも他社品を取り扱うケースもあり、ここまで幅広く多様な事業内容は三重県内では珍しいかもしれませんね。」
Q. DX化や生成AI等への対応は?
「本来、製造業は情報処理能力がポイントだと考えていることから、生産管理システムや検査システム、受発注システムなどのソフトは私が作っています。一般的に、新規の取引先さんを開拓すると担当者をつけますが、そうすると事業の拡大に合わせてどんどん人手が必要になってしまいますよね。これでは小規模事業者ほど頭打ちになってしまうところ、DX化が叫ばれて久しい今でも多くの企業はソフト面への投資が少ないというのが実情のようです。
このように、受発注をExcelなどで管理しているという企業が多い中、弊社は材料の発注から、受注して生産、出荷、部品の在庫管理なども含めて自前のシステムで管理できるようにしていますので、DX化による利益率の確保ができていると自負しています。私が前職でスパコンの開発に携わっていた経験が少し活きましたね。
今からDX化に着手する会社さんは、まず業務体制を整えなければ難しいのかもしれません。弊社がスムーズにDX化できたのは、1998年には1つ1つの作業に対して記録を残すといったルールを徹底していたため、管理体制が確立しており、社員の意識化ができていたことが大きいと思います。作業をシステム化するだけで済みますからね。DX化は単にシステムを入れるということではなく、イレギュラーな不良の管理や面倒な在庫管理についても、何のためにそれが必要なのかという本質的な部分が社員に浸透していることが大事ではないでしょうか。
また、材料の発注や生産について、現在は私が数ヶ月ごとに動向を追い、過去データから算出した月平均や年平均と照らし合わせて調整を行っているのですが、今後はAIで予想できないかと検討しています。これも私がシステムを組もうかなと思っておりまして、弊社は30年近くデータを蓄積しているので可能ではないのかなと。AIの導入もビッグデータがあってこそですからね。」
Q.同業他社との差別化はどのように考えていますか?
「社長自らが、毎月何かを細かくチェックしているという企業は少ないのではないでしょうか。財務状況にしても、売上は把握しているかもしれませんが、製品別に何がどれだけ売れているという分析までしている社長は非常に少ないと思います。その点、私は毎月かなり細かいところまで見ていますし、棚卸は半期という企業が多い中で、弊社は毎月実施しているんです。
毎月製造しているような数が多いものは、少しくらい作りすぎても捌けていきますし、ひと月くらい製造できない事態が起こっても大きな問題にはなりません。しかし、たまにしか作らないようなものほど足を引っ張る、例えば何かあったら全て廃棄になってしまうような可能性もありますから、数が少ないものについてどう手綱を取っていくのかがポイントだと思っています。そうすると、どうしても毎月きちんと確認しなければいけないんですよね。
受注が安定しないと嘆く社長は多く、確かにメーカーや代理店の在庫など自社でコントロールできない要素が多いので難しい部分はあると思います。しかし、例えば住宅着工件数など指標にできる数字はありますから、私はエンドユーザーに渡るまでの市場の動きなど、色々な要素を鑑みて予想を立てるということをしておりまして、これはあまり他社さんがやっておられないことかもしれませんね。」
Q.御社の採用や教育など、組織運営のこだわりは何ですか?
「みんなが楽しんでやれる仕事を用意しなければいけないなと思っています。毎日ルーティーンで手作業をしたい人もいるし、マシンのオペレートがやりたい人もいて、それぞれですよね。ですから例えば、樹脂を削って製品にしたいという社員がいたら、それができる仕事を受注しよう、お客さんを開拓しようという風になります。やっていったほうが良いなと思うことに、人や仕事を嵌めていくという感じでしょうか。
もちろん事業内容からかけ離れた、極端に言えばいきなり農業に進出するということではなくて、例えば部品をそのまま販売するということもできますが、その部品に穴を開けてほしいというお客様がいらっしゃるとすれば、弊社としては穴を開けるという仕事が増えますよね。そうすると、基準体積あたりの単価が上がります。販売を伸ばす方法としては、販売数を増やすことの他に、単位体積あたりの売値を上げていくということも大事なのではないかな、と考えているんです。
そのためには当然、様々な加工や新たに発生した業務に対応できる社員を、きちんと受け入れる環境を整えておく必要がありますし、新しい設備等も必要になってくるかもしれません。こうしたスタンスで、常に柔軟な対応ができるようにはしていますね。同じお客様に対して売れるものの幅が広がるということは、そのお客様と方向性が同じ他のお客様に対しても、間口を広げることができるということでもあると思います。これは結果として、シェアの拡大や同業他社との差別化にもつながっているのではないでしょうか。
教育についてはあまり形式ばったものではなく、日常の会話を通して伝えることを大事にしていて、興味を持ってくれる社員を見つけては色々な話をしています(笑)。現在、多くの企業は短期で辞めてしまうことを前提に余剰人員を採用していますよね。それで募集定員割れだと言っているのはおかしな話だと思いますが、10人が必要なところ倍ほどの人数を入社させて、一定数が定着すると判断した数年後にしか研修を実施していない企業もあるようです。
これはつまり、入社から3年ほどは研修等で鞭を打たれながら、どれだけ能力を伸ばせるかという教育を受けた我々の時代のスキームとは大きく違っているということであって、人手不足という表現は違うんじゃないかなと思うんですよね。採用も教育も、一つの切り口でやっていくのは良くないのかなと思っていて、一律ではなく1つ1つの事象を自身の目で確かめて決めていくようにしています。
『お前のやり方は大学の研究室のようだ』と言われますし、個々の育成プログラムになるので100名ほどのフィードバックは大変ですが(笑)、ちゃんと見てあげるのも社長の責任ですからね。放任という名の責任逃れで、失敗した時に怒るようなことはしたくないと思っています。」
Q.会社経営、組織運営についての哲学やポリシーを教えてください
「主導的立場になれる人がいれば、向いていない人もいますよね。しかし、向いていないことにはそれなりの意味があると思っているんです。例えば一般的にはダメ社員の烙印を押されている人でも何か良いところを見つけてあげたいですし、ある意味で何を言われてもそのままの自分でいられることは、ハートが強いという一つの能力であり、貴重な財産だとも言えるのではないでしょうか。普通は折れて下を向いてしまうところ、自分を卑下しないってどんだけ強いんだと(笑)。
私の場合、これは優しさというよりも観察している感じで、誰に対してもフラットに接したいというスタンスからです。会社は社会の縮図ですし、外国人雇用やLGBTなどの多様性が叫ばれる中で、近くに存在する人であれば否応なく受け入れざるを得ないのではないかと思っています。例えば今は障害者雇用も普通のことですが、ぱっと見で健常者と見分けがつかない方も多いですし、そもそも健常者のほうが絶対的に仕事ができるということでもありませんからね。一所懸命やってもできない人だって、別にサボっているわけではありませんし、人の邪魔をしているわけではありません。
つまり境目なんて無いという考え方なんですよね、文系と理系をはっきり分けることができないように、と言えば伝わりやすいでしょうか。だからこそ、力強く自信を持てるよう、数字に救いを求めているようなところはありますね(笑)。ただ、ドラッカーなども突き詰めれば哲学的な内容だなとは思っています。利潤も大事なんでしょうけれども、せめてこの場所だけでも色々な人がいて社会が成り立っていることを意識して働くことができればな、という感じですかね。」
Q.御社のこれからの展望は?
「日本のマーケットがシュリンクし続けている中で国内企業のグローバル化が進み、円安を強みにできていない現状があると思っています。波に乗って輸出を強化できる状況であれば、高い材料で作ったものを高く売ることもできたのですが、各地の戦争リスクが高まっていることもあり、苦しい状況です。そうした局面で、身も蓋もない言い方をすれば、撤退する企業が出た分だけ弊社が伸びたということは言えるのではないでしょうか。マーケットが大きくなっていない以上、厳しいですがこれが、弊社に限らず売上や人員の規模を拡大した企業の現実に思えるんですよね。
こうした状況で弊社は、補助金を活用して設備を増強しました。コロナ禍からのリカバリーで打ち出された色々な制度がありましたからね。今後は、同じ製造業である他社がやっていないようなこと、例えば他の業種を組み入れるなどの戦略を考えています。弊社の営業のやり方ならそれができますし、先ほどお話したように多種多様な人材を抱えていることも強みになるかなと。新しい業態に打って出るにも、設計開発や保全のノウハウを持つ弊社は、ゼロベースで取り組む会社よりも優位に進めることができるように思いますので。
更に、拠点を増やすことやM&A、協業なども検討しておりまして、このうち何が適切なのかは難しいところではありますが、現在は信頼できる協力メーカーを作っていく方向で動いています。いずれにしても仕事が入って来るルートが増えますし、社員も関係会社を行き来することで自分のやりたい仕事が見つかりやすく、働きやすくなるでしょうからね。細かい構想は企業秘密ですが(笑)、製造業の新しいフランチャイズといったイメージで展開できれば良いかなと考えています。」