- 会社名:
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株式会社やなぎ
- 所在地:
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三重県
- 代表取締役:
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高柳 稔
- 設立:
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創業 1999年
目次
Q.御社の現在の事業内容について教えてください
「お葬式の施行が中心ですね。お葬式の仕事について少しご説明いたしますと、基本的にまずご遺族様からご連絡をいただくことからはじまります。内容はお葬式をどのようにしたら良いのかというご相談がほとんどでして、こちらで流れなどをご説明させていただく形です。今は病院や施設で亡くなられる方が多いので、故人様をご安置もしくはご自宅へお連れした後で、ご家族様とお葬式についての具体的な打ち合わせ等をすることになります。
具体的にはお葬式の日時や内容、費用面について決めながら受注をいただくことになりますね。そうして実際にお葬式を進めていくのですが、お式が終わればそれで終わりということではなく、仏教で言えば初七日や四十九日法要、百日忌、一周忌といった年忌法要等のご相談やお手伝いをさせていただきながら、人が亡くなることによって発生するご供養に関する諸事をトータルでお手伝いさせていただく事業を行っております。」
Q.御社の採用や教育など、組織運営のこだわりは何ですか?
「弊社に限らず、葬祭業はどちらかというとお仕事をする上であまり一般的ではない業種だと思っております。つまり、他業種と比較して募集の段階から業務内容をより丁寧に説明しなければ採用が難しいように思いますね。
また、これも弊社に限りませんが24時間対応というところがほとんどだと思いますので、この点も求職者さんが不安に感じないような説明をする必要があります。どうしても人が亡くなるタイミングはいつになるか分からないものですから、その時すぐに対応できる体制を取らなければなりませんので、残業時間や休日に配慮しながら、できる限り24時間体制を交替勤務で維持する形にしています。ただ、昨今の働き方改革との兼ね合いは前例がなく、手探り状態ではありますね。
また、葬儀業界はほぼ100%が全てを1人の担当者が行う”1お葬式1担当制”と言われる体制を取っている中で、当社は1人のお客様に対する関わりを分業制にしております。施設や病院へお迎えに行く係、お葬式についてご相談をお受けしたり打ち合わせをして受注する係、実際にお葬式を執り行う係、お式の後に年忌法要やお墓、仏壇に関するご相談を受ける係といった形で、限られた時間の中でそれぞれがそれぞれの業務をできる体制を整えてきました。
分業制に関しては4〜5年前からの取り組みで、社員たちが納得できる社内環境としてはもちろん、お客様にとっても担当者が眠たい目をこすりながら対応させていただくよりは良いのではないかとの評価もいただいておりますので、従前よりは良い対応になったと感じてもらえていると思います。お葬式の時間配分はお客様によって異なりますので、分業制にすると引き継ぎの時間が不規則でタイミングが難しいなど大変なことも多々ありましたが、他社さんの中にも少しずつ分業体制を取るところが出てきているようです。
育成については、割と古い体質の業界ですので、 『今でも見て覚えろ』、『怒られて覚えろ』という風潮があり、サービス業でありながら職人気質の方々が入社してくるケースが多いんですね。先程の1担当制という部分も含めて、お客様満足を追求したいということがありますから、弊社では技術的なことやルール、マナーといったことの前に、何のためにお葬式をしていただかなければならないのか、という点を考えることを一番大切にしています。やはりそれを共有することではじめて教育制度も活きてくるのかなと。
もちろん、なぜお葬式をするのかについては、人によって違うのが当然だと思いますし、ご家族によっても違うでしょう。しかし共通しているのはやはり、主人公は故人様ではあるものの、お葬式は残されたご家族が今以上に幸せになっていただくための儀式であるという捉え方で、弊社の場合はこれをみんなで共有しているんです。そのために何をしなければならないのか、それを実現するためにはどういうスキルがいるのか、どういうルールでやっていくのが組織として、お客様にとって一番良いのかを追求しながら、まずは弊社の経営理念やミッションを社内で共有するようにしていて、言い方が悪いかもしれませんが、各人がインストールするというか、腹落ちさせることを特に重要視しています。
これは具体的な業務に関しての研修やロープレ、会議等で成り立っているものだと捉えておりますので、ミッション教育やミーティング、各種会議や研修を月間、あるいは年間を通して予定を立てた上で実施していますね。最近はあまり会議をしないほうが効率的ではないかとも言われますが、この業界はそれぞれが現場に出払っていて顔を合わせる機会が少ないという状況がありますし、故人様が亡くなるタイミングが図れない中で目先の仕事を優先したり、ケースバイケースで動く必要もある中で、タスクを立てて実行していくというスキルも社会人として必要だと考えています。予定の変更に対応するという経験を積むことで、立ち回りも覚えていくでしょうからね。」
Q.会社経営、組織運営についての哲学やポリシーを教えてください
「経営理念やミッションの浸透は、どの業種どの会社でも課題があるとは思います。例えば多くの会社がそうであるように弊社でも毎日朝礼を行っているのですが、ここまでにお話したように社員の出社が不規則な環境ですので基本的に全員が揃うことはなく、毎朝決まった時間に出られる人は出ながら、トータルではみんな何日かに1回は出られるという形にならざるをえません。
その中で経営理念やミッションの唱和を行い、更にその理念に関する質問や、現場で得たお客様の声を取り上げ、朝礼の中で社員から社員に投げかけて、短くても良いのでそれに対するコメントをしてもらっています。お客様アンケートでこんな良いお声をいただけたのは、このミッションがあったからです、といったような会話ですね。
また、人事評価制度の中にもミッションもしくは経営理念、会社の方向性に合った行動をしているのか、普段からこれらを交えた言葉を発しているのかについても、上司から見た評価項目のひとつとして入れています。また、私自身も朝礼であったり、会議であったり、月1回の全社ミーティングなど機会を見つけては、社員向けもしくはお客様向けに”お葬式の意味は何なんでしょうね”という主旨の同じ内容を繰り返し、皆さんが飽きない程度に(笑)部分的に短くしながらお伝えし続けていますね。
やはり一番大事だなと思うのは、社員の前で話すお葬式の意味や価値、私たちが目指す方向というものと、お客様に対してセミナーでお話する内容が一致していることではないのかなと思っています。これは凄く難しいわけではないんですけれども、どうしても社員向けとお客様向けとで、少し変わる場合が出てくるのかなと思いますので、ここを合わせていくことは社員が腹落ちする1つの大きなポイントだと私は思っております。
この難しい部分は、どうしても会社経営の目線からはビジネス色が出てくるからで、これをお客様へ伝えるのと社員へ伝えるのでは微妙に変わるのかもしれません。しかし、これはお客様へ言うことではないかもしれませんが、例えばどんなビジネスでも単価×個数が売上であって、ここは重要なんですけれども、単価というのは何なのか、個数とは、売上とは、この要素それぞれがお客様や社員、会社、地域まで含めて良くなるための数字であるということを、私はお客様へも社員へも伝えるようにしています。」
Q.御社の組織や社員の魅力は何ですか?
「先ほども少し触れましたが、この業界に入ってくるのはどちらかというとボランティア精神の強い人たちが多いんです。やはり亡くなった故人様やご家族のお相手をする仕事ですから、多くの人にとってはそれほど関わりやすくはないと思うんですね。それでもこの業界を選ぶのは、自分が家族のお葬式を経験することでこういうお仕事があるんだということを知り、お葬式はもっとこうしてあげたら良いんじゃないかなという気持ちを持っている人たちが多いわけです。
こうしたことから先程お伝えした、お葬式は残されたご家族が幸せになるためにするものだという捉え方を踏まえて、そのために何をすれば良いのか?自主的に考えてくれる人たちが多いのかなと思いますね。具体的にご家族が幸せになるために何をするのか?はなかなか難しいのですが、1つはお葬式の中で人とのつながりを更に深める、もしくは新しいつながりを作るといったことで、人とのつながりを大事にすることを学んで、幸せとつなげていくきっかけにすることなのかなと。
そうすると、人とつながるため、人とコミュニケーションを取るために何が必要かといえば、共通の話題が必要ですよね。その時に初めて故人様が出てくるんです。故人様を振り返る共通の友人、ご家族、親戚、ご近所さん、この空間と時間をどうやって作ってあげるのか、例えば思い出を文字や映像で可視化する、故人様の趣味などを飾るコーナーをご家族と共に作り上げるといったことをしっかりとやってくれる、それがお葬式なんだということが解ってくれている社員は自慢ですね。
また、求人に対して応募する時に求職者さんが割と気にするのは、社員間の風通しであったり、仲の良さと言うと変かもしれませんが、やはり人間関係だと思います。弊社も求人広告には社員間のコミュニケーションが良好である点や何でも言える組織であることを文章にするわけですが、正直それは書こうと思えば勝手に書けることですよね。しかし、新しく入ってきた社員さんからは実際に”皆さん仲が良いですね”と言われますし、最初に感じるのが空気感の良さだということです。
良いか悪いかは別として、普通はやはり社員間の競争があったりするんですよね。これも確かに大事な部分ではあるんですけれども、何のために競争するのか?ということがミッションと合致していないと、ギクシャクした個人的な競争になってしまうわけです。ところが弊社の場合ですと、もちろん社員には個人的な目標もありますが、それが何のためにあるか?のかといえば、部署の目標、会社の目標を通じ、最終的にはご遺族の幸せにつながっていくためです。
結局は残されたご家族の幸せという最終目標を個人まで落とし込むことで発生している目標ですから、単に給料がいくらだとか、売上がどうだとかいう目標ではない、これは非常に大きなことだと思っています。数字に表していくという意味では一緒のように思えますが、その背景にある目的が違いますので、社員間のギクシャクした関係は生まれないのかな、と感じているところです。これはやはり経営理念やミッションがそれぞれに腹落ちしていて、大きな方向性をみんなが分かっているからではないのかな、と思っています。」
Q.御社のこれからの展望は?
「葬儀業界はどちらかというと、家族葬や小規模なお葬式が増えている中で単価が下がり、結果的には売上が下がってきている状況なんですよね。そうした中で、もちろん全てを調べたわけではないのですが、多くの葬儀社さんは単価が落ちてもよいから件数を増やして売上げを上げていこうというように対応されているようです。しかし、弊社の場合は件数を増やしたいということではなく、シェアを広げたいと考えています。
お葬式の価値をしっかりと分かった葬儀社が、その地域でお葬式をしっかりと執り行うお手伝いをすることが、地域が幸せになるための大きな役割で、独占しようというつもりはないのですが、弊社のシェアが拡大すればこれが実現できるというのが、社員みんなの気持ちだと思うんです。件数を追いかけない以上、ビジネスとしてこれを実現するためには、弊社の場合ですとお葬式の市場価値を上げていくということになりますね。
価値を上げるということは、もちろんそれに見合ったお葬式をしなければならないということになりますので、単に儀式としてお葬式を淡々と進行するのではなく、おかしな言い方かもしれませんが思い出に残るお葬式ができればなと思っているんです。実はこれ、お客様アンケートの中で頂戴した表現でして、『思い出に残るお葬式をありがとうございました』と言っていただけるので弊社もそのように申しております。お葬式をきっかけとして、ご遺族が明日からの第一歩を笑顔で迎えられるお葬式が必要ですよね。
お葬式をされる方々が、これはお葬式をしたほうが良いよね、お葬式はこういう風にしたいよね、と望まれる結果として、やなぎ葬祭さんが一緒にやってくれるのであればこれくらいのお金を払いますよというように、やりたいことのお手伝いが売上につながる流れをしっかり作りたいなと思います。エリアを広げるという意識はそれほど持っておらず、地元のお葬式のシェアをしっかりと広げながら、地元のお葬式の価値を作っていきたいですね。
これまではある意味で、地域のお葬式のやり方を押しつけられていたということもあると思いますが、今はお葬式の価値が微妙に変わってきています。私はこの逆、家族単位でそれぞれの想いに合わせたお葬式ができるという意味で”家族葬”という言葉を使っているので、お葬式の価値を”作る”という表現になるんですね。ただの小規模なお葬式を家族葬だとは考えていませんので、地域ではなく家族が考えたお葬式が500人の規模であれば、それは家族葬なんです。こうした、家族が考えたお葬式が地域にしっかりと根付いていく、そういったご遺族を増やすことを考えていきたいですね。
こうした会社の目指す方向性は社員も共有していますし、そのために何をすれば良いのかも社員は解ってくれています。こうした体制があるので、エリアを広げるという考え方が主流の葬儀業界の中では逆行するかもしれない方針でも進めることができている、会社の経営自体もしっかりと市場価値を維持しながら、シェアが広がることで地域内の件数も伸びている、コロナ禍でも落ち込むことなくトータル売上が増えているといったように、きちんと結果を残せているのかなと思うところです。」